エントリー目次
ブルックリン
2017.03/30 (Thu)
ブルックリン (2015年 監督:ジョン・クローリー 出演:シアーシャ・ローナン、エモリー・コーエン、ドーナル・グリーソン、ジム・ブロードベント、ジュリー・ウォルターズ、フィオナ・グラスコット)
この映画、映画カッパさんの「映画的日記」でも、つかりこさんの「ゆらゆら草」でも
高評価だったし、友人マッチも良かったと書いていたので観てみました。
はい、話に派手さはありませんが主人公エイリシュの心の揺らぎを
とても丁寧に描いた心に沁みる作品だと思いました。

お話は・・・
時代は1951年〜1952年。
アイルランドの田舎町で暮らすエイリシュ(シアーシャ・ローナン)は
仕事も出会いもない閉鎖的故郷をあとにしてニューヨークのブルックリンへ移住した。
燻っていたエイリシュのために姉ローズ(フィオナ・グラスコット)が
ニューヨークで働く機会を用意してあげたのだ。
新天地で第一歩を踏み出したエイリシュだったが、
慣れないデパート勤務と寮生活でホームシックにかかってしまう。
悩む彼女に世話役の神父は大学の会計士コースの受講を薦める。
勉強を始めたエイリシュは少しずつ自信を取り戻し、見た目も垢抜けていった。
そんな彼女をパーティーで見初めたイタリア系青年トニー(エモリー・コーエン)は
声をかける。
つき合っていくうちにエイリシュもトニーに好意を抱き幸せな時間を過ごすふたりだった。
そんな矢先、エイリシュの元へ姉の訃報が届く。
急ぎ帰郷することにしたエイリシュは、帰郷前にトニーに懇願され入籍する。
故郷では昔馴染みの青年ジム(ドーナル・グリーソン)と再会する。
立派な紳士となったジムには優しくされるし、
亡姉のいた職場には姉の代わりに働いてほしいと頼まれるし、
そうやって故郷で日々過ごすうちに故郷の暮らしに居心地の良さを感じ始める。
・・・もし、このまま故郷で暮らし続けたら? と心が揺れる。
次第にトニーへの後ろめたささえ忘れかけるエイリシュであった。
・・・本当に彼女が居るべき場所はどこ?

わかる。よーくわかる。私も10代の終わりに故郷を離れ海を渡ったひとりですから、
エイリシュのブルックリンでの新生活スタートの緊張感は実感として伝わってきました。
(ただ私の場合、ホームシックは皆無でした)
見知らぬ人達がだんだん顔見知りになり、どんどん知り合って、
そのうちたやすく心に浮かぶ相手になっていく過程が、
ああ私もそうだったな〜と懐かしく思い出されました。ここら辺の描き方の上手さと、
もうひとつはエイリシュが故郷へ戻ってからの心の揺れ具合の描き方が上手くて
私も一緒に心を揺らしながら観てしまいました。
あれ? 故郷って昔はあんなに居心地が悪いと思っていたのに、
一度離れて戻ってみたら思いのほか温かいし美しい。
渡米する前からこんな状況だったら故郷を離れなくてよかったかも・・・
いっそブルックリンへ戻らず居続けてしまおうか?
と、どこからか悪魔のささやきが聞こえ、ふらふら〜となりかけた時、
リアル魔女のような嫌味で意地悪なおばさんミス・ケリーにかけられた言葉で
エイリシュはハッと我に返ります。
ある。あるよね。
このままじゃあ、マズイんじゃないの?
と、わかっていながらぬるま湯から出られない状況。
あと少し、もうちょっとだけ・・・と思って、ついついいつまでも浸ってしまう。
でも、そこへビシャッ!とミス・ケリーに冷や水をぶっかけられて、
目が覚めたエイリシュは徹底的な間違いを犯さずに済むのでした。
自分が居るべき場所は? 帰るべき場所はどこなのか悟ったのです。
まあ確かに、エイリシュは非難されてもおかしくない点がありますよね、
結婚したことを言わなかったとか。
でもそれは、姉を亡くしたばかりの独り暮らしの母親に
「私はアメリカで結婚したから故郷でお母さんとは暮らせない」
とは、すごーく言いにくかったんだと思います。
トニーから何通もくる手紙に1通しか返事を書かなかったのも、
揺れる心の内は書けないし、噓も書きたくなかったからだと思います。
心が揺れるなんて、そもそも不誠実だろ! と言われてしまいそうだけど、
でもさ、心って勝手に揺れるものだからな〜。
と、観ていてそんなことを考えました。まあ、ふらふら寄り道や迷い道をしたけど、
ちゃんと自分がイチから築き上げた居場所へ帰っていったから良しでしょう。
あそこであれだけふらふらしたから、彼女は今後は決して迷ったりしないような気がします。
若い時こそ迷うべきだ。
そういうもんじゃないでしょうか?
★★★★☆
原題:Brooklyn
